花束みたいな恋をした
2021-16 TU
ぴあ映画生活
わたしも映画チケットの半券をしおりにしています。本屋さんのレシートをしおりにすることもあります。でもこれまで素敵な出会いはありませんでしたねえ。
この作品、まったくノーマークでした。劇場予告編を見ても、ベタベタのラブストーリーで有村架純さんを無駄遣いしてるんだろう、くらいに思っていました。
公開されてみるとあちらこちらから、絶賛の声や悲鳴が聞こえてきます。予告編で感じた印象と違い、どうやらわたしの好みの感じ悪い系らしい。ということで、鑑賞してきました。
連想したのはこの作品。
いろいろな評論でも引き合いに出されていましたが、傑作です。ライアン・ゴズリングとミシェル・ウイリアムズ演じる主人公夫婦のかみ合わなさと、特にゴズリングの演じる夫のクズっぷりが素晴らしい。作中二つの時間軸が進んでいくが、最後にそれらの交るところで、感じ悪いだけでない何とも言えない気持ちにさせてもらえます。お勧め。
花束 の話に戻します。
観てみると、まあとにかくいろいろな層の観客にいろいろな角度から刺さるところがちりばめられていて、刺さった人はつい語りたくなってしまうような作りになっていました。
お話は、主人公二人、絹さんと麦くんの恋愛について出会いから結末までを中心に進められていきます。
この二人のように、肩までどっぷり恋愛に浸かっていた人、現在進行中で使っている人、これからの予感がある人、みんなこの二人を内在化してしまうようです。
恋愛以外でも、二人は本や映画、お笑いなどの文化面でも趣味が通じていて、しかも世間の主流というか、流行から少し距離のあるところに興味があるようなのですが、この辺も同世代の同じような感性で2010年代中頃を過ごした方にはかなり響きそう。
かくいう私はどうだったかといいますと、これだけたくさんの釣り針を垂らしてもらったにかかわらず、ほとんど食いつくところがありませんでした。
恋愛面ではこれまで絵にかいたような非リア充人生を歩んできて、これからも年齢的にそういう期待がないものとして全く響かず、感じ悪さも期待ほどではなく、序盤で見せてくれる非リア充生活も、劇中二人の行動がシンクロニシティ、あるいはセレンディピティを起こしすぎていて、非現実的で逆に全く共感できなかったり。
文化面でも、これは世代の違いということなのでしょうが、彼らの会話に出てくるキーワードでわかったのは、小川洋子、麦くんの本棚で気になったのは「AKIRA」くらいだったかなあ、あの世代で「AKIRA」の単行本を持っている子もいるんだと感心したりしました。
調べてみたら、まだ新品で買えるのですね、さすが大友!!
あとはストーリー進行上超重要なキーワードとして、というか超びっくりの形で押井守の話題もでましたが、おそらく彼らの見ている押井と私の観ていた押井はちがう押井だろうなあ、と逆に少し寂しくなってしまったり。
とはいえ、面白くなかったとかダメだったというわけではなく、とても面白く観させてもらえました。
多くの人のように、激しく内在化してしまうわけではなく、彼らのいたところからさらに外側の傍流にいた同じ年ごろの自分と、要所でつい照らし合わせてしまっていました。
坂元裕二
本作は脚本を務められた坂元裕二作品であるというような論じられかたをすることが多いようです。確かに本作の面白さの大きな要素は、会話にあることは間違いないと思います。
何気ない会話やせりふ、しぐさが、のちに起きる出来事と響きあうところでは、観ている人にいろいろな感情を起こさせます。
私が大好きなのは、二人で行ったミイラ展の帰りのファミレス、店員さんが注文取りに席まで来たときに、麦くんそっと図録を閉じます。綻びはこんなところからすでに始まっていたのね、と終劇後に改めて思わせるシーンです。
今回初めてお名前を知ったのですが坂元裕二さん、「東京ラブストーリー」なども携わられた大ベテランなのですね。
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