K-19 Widowmaker
K-19 Widowmaker (TV asahi 21:00)です。
以前「敵対水域」という本を読んで感銘を受けていた私は、この映画の製作を聞いたときに、てっきり敵対水域の映画化と勘違いしていました。しかも公開されるまで気づきませんでした...
絶対に劇場へ観にいこうと思っていたのですが、公開されてから少しずつ耳にする情報が敵対水域とは微妙に違っています。年代に至っては30年以上も違うし。よく調べてみると、「敵対水域」と「K-19」は、まったく違う事故を扱っていたのです。こんなチョンボをしたひとが私以外にもいるはずです、少なくとも何人かは。そんなわけで思い切り萎えてしまったのと、忙しさもあり劇場では観ることができませんでした。なので今夜が初見です。
オープニングクレジットによれば、主演のハリソン・フォードが製作総指揮、監督はなんと女性監督のキャスリン・ビグローです。ジェームズ・キャメロンの元奥さんにして、その影響かSTRANGE DAYSなどやけに男臭い映画を撮る人です。女性とはいえ、彼女であれば潜水艦という男臭い世界も表現できるかもしれません。
「Uボート」のときにも書きましたが、最近の潜水艦映画は快適すぎて、何ともいえない息苦しさや閉塞感のようなものに伴う緊迫感が感じられません。「U-571」とかは頑張っていましたが、やっぱりもうひとつでした。「K-19」では"放射能"という新しい要素で、息苦しさを表現することに成功していると思います。放射能に汚染された艦内でのラスト数十分はかなり本当に息を殺しながら見入ってしまいました。でもカメラや照明などの基本的な演出面では、まだまだ昔の名作から学ぶ面がたくさんあるのは間違いありません。
なかなか頑張っていた「K-19」ではありますが、不満な点もたくさんあります。一番まずいのは、「考証をまともにやっていないのではないか?」と思えるところが何点かあったことです。明らかに潜望鏡深度まで浮上していないのに、リーアム・ニーソン演じる副長が大きな声で「潜望鏡上げ!!」とか言っちゃうなど潜水艦の運航上不自然なところが何点かあり、気になって話に集中できないときがありました。
本作中での一番の危機である「核爆発」に関する表現にも怪しいところがあります。
作中では、(1)冷却水が抜け (2)原子炉が1000度C以上に過熱して (3)原子炉が熱核爆発をおこし (4)積載する核ミサイル弾頭にも誘爆 (5)原子炉と弾頭あわせてヒロシマの数十倍 と、新任原子炉担当士官が説明していますが、これがいかにも怪しい。
私も原子炉や、もちろんソ連原潜にも詳しいわけではありません。でも、劇中の状況で最悪の事態というのはこんな感じのはずです。(1)冷却水が抜け (2)原子炉が1000度C以上に過熱、ここまでは同じです。(3)高温の炉心が船体を溶かして突き破り海中へ飛び出す (4)炉心の熱で海水が一気に沸騰し水蒸気爆発(核爆発ではありません) (5)船体は木っ端微塵となり、核ミサイルは船体とともに海底へ
そもそも原子炉に使うような核燃料では、どう頑張っても核爆発を起こすようなことはできません。反応を起こす物質濃度が爆弾の十分の一くらいしかないからです。仮に十分な濃度であっても、これに反応を起こさせるのがひと苦労です。ごく大量の物質をひとまとめに置いておくか、周囲に高性能火薬を精密に配置し同時に点火、超高圧の状況を作り出してあげなければなりません。新任とはいえ、原子炉担当がこんなことも知らないなんてことはありませんよねえ...
本作はエンターテインメントとはいえ事実に基づいた話です。確かに「核爆発の危機」はまさに危機感を感じさせるのに有効ですが、こんな脚色をしてしまったのでは「史料」としての価値がまったくなくなってしまうのが残念です。
ヘナチョコ新任原子炉担当のヒロイックな頑張りもなんかねえ...いかにもハリウッド風で違和感ありすぎです。
最後に K-19 について。
アメリカが「ホテル級」と呼んで識別していたソ連最初の原子力潜水艦の1隻が「K-19」です。1960年頃、ホテル級の中でもおそらく一番最初に就航した艦が「K-19」です。まさにソ連最初の原潜だったわけですね。ホテル級原潜は、8隻建造されたものの原子炉に欠陥があったらしく何度も事故をおこしていたようで、現在は全艦とも退役しているようです。「K-19」はこの事故後1980 年代まで現役だったそうです、こわいですね。
冒頭にふれた「敵対水域」ですが、こちらは緻密な考証と取材で読み応えのあるドキュメンタリーになっています。1986年頃 K-19と同じくアメリカ東海岸沖でヤンキー級原潜 K-219 がメルトダウン寸前にまでなってしまった事件を扱っおり、こちらは本当におすすめです。
K-19
amazon.co.jp
敵対水域 ソ連原潜浮上せず
amazon.co.jp
以前「敵対水域」という本を読んで感銘を受けていた私は、この映画の製作を聞いたときに、てっきり敵対水域の映画化と勘違いしていました。しかも公開されるまで気づきませんでした...
絶対に劇場へ観にいこうと思っていたのですが、公開されてから少しずつ耳にする情報が敵対水域とは微妙に違っています。年代に至っては30年以上も違うし。よく調べてみると、「敵対水域」と「K-19」は、まったく違う事故を扱っていたのです。こんなチョンボをしたひとが私以外にもいるはずです、少なくとも何人かは。そんなわけで思い切り萎えてしまったのと、忙しさもあり劇場では観ることができませんでした。なので今夜が初見です。
オープニングクレジットによれば、主演のハリソン・フォードが製作総指揮、監督はなんと女性監督のキャスリン・ビグローです。ジェームズ・キャメロンの元奥さんにして、その影響かSTRANGE DAYSなどやけに男臭い映画を撮る人です。女性とはいえ、彼女であれば潜水艦という男臭い世界も表現できるかもしれません。
「Uボート」のときにも書きましたが、最近の潜水艦映画は快適すぎて、何ともいえない息苦しさや閉塞感のようなものに伴う緊迫感が感じられません。「U-571」とかは頑張っていましたが、やっぱりもうひとつでした。「K-19」では"放射能"という新しい要素で、息苦しさを表現することに成功していると思います。放射能に汚染された艦内でのラスト数十分はかなり本当に息を殺しながら見入ってしまいました。でもカメラや照明などの基本的な演出面では、まだまだ昔の名作から学ぶ面がたくさんあるのは間違いありません。
なかなか頑張っていた「K-19」ではありますが、不満な点もたくさんあります。一番まずいのは、「考証をまともにやっていないのではないか?」と思えるところが何点かあったことです。明らかに潜望鏡深度まで浮上していないのに、リーアム・ニーソン演じる副長が大きな声で「潜望鏡上げ!!」とか言っちゃうなど潜水艦の運航上不自然なところが何点かあり、気になって話に集中できないときがありました。
本作中での一番の危機である「核爆発」に関する表現にも怪しいところがあります。
作中では、(1)冷却水が抜け (2)原子炉が1000度C以上に過熱して (3)原子炉が熱核爆発をおこし (4)積載する核ミサイル弾頭にも誘爆 (5)原子炉と弾頭あわせてヒロシマの数十倍 と、新任原子炉担当士官が説明していますが、これがいかにも怪しい。
私も原子炉や、もちろんソ連原潜にも詳しいわけではありません。でも、劇中の状況で最悪の事態というのはこんな感じのはずです。(1)冷却水が抜け (2)原子炉が1000度C以上に過熱、ここまでは同じです。(3)高温の炉心が船体を溶かして突き破り海中へ飛び出す (4)炉心の熱で海水が一気に沸騰し水蒸気爆発(核爆発ではありません) (5)船体は木っ端微塵となり、核ミサイルは船体とともに海底へ
そもそも原子炉に使うような核燃料では、どう頑張っても核爆発を起こすようなことはできません。反応を起こす物質濃度が爆弾の十分の一くらいしかないからです。仮に十分な濃度であっても、これに反応を起こさせるのがひと苦労です。ごく大量の物質をひとまとめに置いておくか、周囲に高性能火薬を精密に配置し同時に点火、超高圧の状況を作り出してあげなければなりません。新任とはいえ、原子炉担当がこんなことも知らないなんてことはありませんよねえ...
本作はエンターテインメントとはいえ事実に基づいた話です。確かに「核爆発の危機」はまさに危機感を感じさせるのに有効ですが、こんな脚色をしてしまったのでは「史料」としての価値がまったくなくなってしまうのが残念です。
ヘナチョコ新任原子炉担当のヒロイックな頑張りもなんかねえ...いかにもハリウッド風で違和感ありすぎです。
最後に K-19 について。
アメリカが「ホテル級」と呼んで識別していたソ連最初の原子力潜水艦の1隻が「K-19」です。1960年頃、ホテル級の中でもおそらく一番最初に就航した艦が「K-19」です。まさにソ連最初の原潜だったわけですね。ホテル級原潜は、8隻建造されたものの原子炉に欠陥があったらしく何度も事故をおこしていたようで、現在は全艦とも退役しているようです。「K-19」はこの事故後1980 年代まで現役だったそうです、こわいですね。
冒頭にふれた「敵対水域」ですが、こちらは緻密な考証と取材で読み応えのあるドキュメンタリーになっています。1986年頃 K-19と同じくアメリカ東海岸沖でヤンキー級原潜 K-219 がメルトダウン寸前にまでなってしまった事件を扱っおり、こちらは本当におすすめです。
K-19
敵対水域 ソ連原潜浮上せず
スポンサーサイト